石川ひとみの勝負歌?「哀愁に走って」

  以前に、石川ひとみ『哀愁に走って』は歌詞的には勝負歌の部類だけれども、シングル盤では出していないので取り上げないということを書きました。

 今回はプロデュースの問題ではなく、全曲インプレッションのカテゴリーですので、改めて取り上げてみます。
 
石川ひとみ【哀愁に走って】(1979)LP「ひとりぼっちのサーカス」
作詞:うさみかつみ/作曲:三木たかし/編曲:若草恵


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雨が冷たいガラスの街
肩を寄せ合いシグナル待つ
逃げるようにどこへ行くのでしょう

最初にロングショットで逃避行の二人をとらえ、「どこへ行くのでしょう」と誘い込む、良い入りですね。

次に一転して私の気持ちを歌う「序・破・急」の構成ですね。構成そのものは悪くないですね。普通の歌ならば。


けれども、この歌詞の内容である「アイドル勝負歌」にはならないでしょうね。

初めに、客観的な視点が示されているので、その後の記述に感情移入がしにくいかと。

視覚的なイメージからの入りは、それ自体すごくイイものがあります。


みんな分かってくれないけど...

...どこまでも どこまでも
 

何か、最初に示された第三者的視点のまま次に入ってしまうので、聴く方は急に内面的世界にワープすることは、すんなりとはいかないような...

だから、私の切実な気持ちの吐露が、他人事のように感じてしまう。


ひとつの傘あなたと持つ
握った手のぬくもりに
愛の深さ感じるのよ 離れはしない...



ちょっと「にわか雨」を連想しますが、こちらは

「嫌われているよな 感じがしていたの」

...と、私の内面からスタートしています。入り込めるし、どっぷりと浸ることも出来る。

でも、この歌の入りは、感情移入がしにくいかなと思うけどねェ。

恋愛というのは心の中のドラマですから、客観的な描写はむしろ邪魔なのではないかな。

構成の巧みさが、逆に情念を対象化してしまう結果になっているように思える。


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のめり込むことを邪魔して、変に覚めた視点で見てしまうだろう。ですから、

   もしもあなたが望むなら
   死ぬかもしれない......


ちょっと、何を訳の分からんことを言い出すの?
ってな感じで、心的な急展開について行きにくい。


伊藤咲子『冬の星』のように、
「もしも迎えてくれたなら私はきっと泣くでしょう。心の張りがなくなって、そのまま倒れてしまうでしょう」

...というのなら分かるんだけど、ねェ。

しかるに、何を望むと、死ぬかもしれない、というの?
 ...と、言いたくなってくる。

この辺が微妙ですね...。

『まちぶせ』がなぜ聴く人の心を揺さぶるかと言えば、終始「私」の内面から「あなた」を見続けるというパースペクティブの集中感にあるわけです。

恋の勝負歌というのは、すべて心の中のドラマを歌うのですから、この「哀愁に走って」のイントロはちょっと展開が急で、内的な時間のスピードが性急過ぎる感じだね。いってみれば、聴く人の気持ちを置き去りにするようだな、と。

ですから、

ふるえている私は誰 もうわからない
... 
死ぬかもしれない


...と、言葉は切迫した表現ですけど、それに見合うインパクトは希薄です。
というより、聞き手に伝わりにくい気がする。


そして、三木たかしの作曲ですが、ちょっとリズミカルすぎると感じます。あるいは若草恵さんの編曲でしょうか?

言葉自体は切迫した表現ですので、あえてリズムに乗せて軽く流そうという意図があったのかもしれません。

ひっちゃんの得意な高音張り上げ歌で、重い歌詞をサラリと歌う石川ひとみ流歌唱ですから、勝負歌にはなっていない、というかそういうことを意識した歌ではないのかもしれない。しかし、
歌詞の意味的な内容から言えば、かなりまみれ系の勝負歌になっているのだけどね。


じつは、この曲は「ひとりぼっちのサーカス」の次に並んで収録されているのですね。
これがちょっと、という感じです。


今夜はどんな嘘をつくの 何も知らないやさしい人に?

の後に...

もしもあなたが望むなら 死ぬかもしれない......

帰るところをなくしても
悔やまないでしょう......



 と続くので、こんなところで勝負しちゃダメよォー、と萩本欣ちゃんみたいにお節介やきたくなるなァ。

 何度もリフレインをしているけれど、行間を読んでも意味が分からんナー、という感じになるだろう。


  それで、うさみかつみさんの名誉のために、少し捕捉説明などをフォローしておきます。

 白井章生=うさみかつみ、ですね。
 山口百恵の歌詞など手がけている方で、早書きで知られていたようです。

 当時は歌謡アイドル全盛期ですから、三木たかしなどの作曲家は多くの注文をさばききれない状況でした
 プロデューサーもスタジオに泊まりがけの日々という状況。

 歌謡曲は、曲先行で行くと作曲家がやりやすく、先に歌詞がある大家の作詞家の場合ですと曲作りが難しくなり、その分時間をとられることがネックです。

 ですから、この当時9割方は曲先行で、時間的なしわ寄せは作詞家が被るという構図が出来ていました。

 

 うさみかつみさん早書きで重宝されていましたので、普通で「あと3日!」という注文が当たり前、時には「明日までにLP曲5つ仕上げて!」なんていう、とんでもない注文もあったそうです。

 思わず、LP『ひとりぼっちのサーカス』の歌詞カードを見てしまいましたよ。ひとみ陣営の話ではなかったようです。

 でも、そのように瀬戸際にならないと仕事に集中できない人というのは多いはずです。一夜漬けの得意なタイプ。人間、やる気よりも、やるっきゃない!という状況の方が効果的なようです。

 

 それで、歌詞を読むとすぐ分かるのですが、視覚的なイメージでシーンを構成するのが特徴、というか得意なのだと思う。カメラワーク的ですね。

 最初にどこかのビルの2階あたりから外を見ているようなロングショットで、交差点で信号待ちをしている先を急いでいるような二人連れ(逃避行のイメージ)をとらえる。

 次はいきなり女性に身を窶(やつ)して、その心情を歌う。

 ところが次では、私の内面(人目避けて)と、第三者の視点(まつ毛伏せて)が同列で記述されています。まぶたを閉じて、とかいうなら自分自身の表現としても通るけれど、まつ毛というのは通らない。

 

 キスする相手の男から見たようなイメージを喚起するはずです。彼がそういう視覚的イメージを持っていたために、ついこういう相手方あるいは第三者的表現になってしまったのでしょう。

 

 これに続く一連の表現も、視覚イメージを連続的にくりだしてシーンを展開させています。良くも悪くも、このような描写の仕方がうさみかつみさんの表現の特徴だなと思います。

 このような視覚イメージは言葉の指示表出性に基盤を置いた表現ですから、その方面では映像が分かりやすい歌詞となっています。

 

 しかし、女性の内面を表現する「私は誰 もうわからない」などというのは、私のようなぼけオヤジのセリフにしかなっていない、のではないかな。

 けれども、メタファーで構成するにはものすごい時間とエネルギーを必要とします。

 作曲家が超売れっ子の三木たかしとなれば、「明日の朝一番で仕上げて」とかいう注文かもしれません。

 曲のメロディーに乗せて、軽快に、イメージの赴くままに言葉を連ねた、ということなのでしょう。

 そういう、「時間的に切迫した状況で書かれた歌詞」という印象がこの歌詞から感じられるわけだね。

 

 もともと、うさみかつみという作詞家は「ピュアな気持ちは、素直にシンプルに表現したい」という感覚を持っていたようですので、女性作詞家のように変に凝った表現はしない。

 ただし、硝子の街、などと書いても今の子は読めない人が出てくるでしょうね。
 一方で、ヒヤカス声、などはカタカナで表記しています。奇妙なアンバランスを感じますけど...

 【追悼】

 三木たかしさん、数々のよい曲をありがとう。サッコ(伊藤咲子)の方にばかりだけど...


 写真説明

 上のの写真、邪魔っけな赤い横線ですが、デザイン的に構成されているものですので、消さずにそのままにしておきました。

 上げ下げ窓を少し下げて、顔だけ素通しで見えている、というイメージで見れば、違和感がないかな。


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