この曲はLP収録曲で、シングルカットされなかった名曲だと言えるでしょう。
感覚派の武衛さんが思い描く海のイメージに投影された「男と女の感情的なせめぎあい」。
男女の愛は潮が満ちたり引いたりに似ている。
潮が引いていくように男の気持ちが遠ざかっていく、この気持ちはたまらないほど哀しい、と。
感覚派の武衛さんが思い描く海のイメージに投影された「男と女の感情的なせめぎあい」。
男女の愛は潮が満ちたり引いたりに似ている。
潮が引いていくように男の気持ちが遠ざかっていく、この気持ちはたまらないほど哀しい、と。
【海のようなやさしさで】(1980.10.21)LP 「 Inside/Outside」
作詞:武衛尚子/作曲:和泉常寛/編曲:渡辺茂樹
作詞:武衛尚子/作曲:和泉常寛/編曲:渡辺茂樹

それを、「海がこわい」という石川ひとみが歌う。
和泉常寛の曲もいいですね。
渡辺茂樹の編曲は、「守ってあげたい」もそうですが、ほんわかムードにしたいのかな?
「守って...」の方はいまいちの感じでしたが、この「海のようなやさしさで」はいいかな。
この曲のキーワードは、いうまでもなく海と潮ですね。
「海のようなやさしさ」と「愛が引き潮」
人それぞれのイメージがあって、それでいいのでしょう。
石川ひとみちゃんは海が怖い、という。
「秘密の森」で書いていますが、海や湖そして森というのは、心理学的には無意識世界の表象だと。
石川ひとみちゃんにとって、海はなぜか怖く、とらえどころのない無意識の世界を喚起するものなのではないかな。
ところが、武衛さんにとって海は命のふるさとのようなものなのでしょう。
子どもの頃から、内面世界を掘り下げて行かざるを得ない生き方をしてきている表現者ですからね。
海のようなやさしさで、すっかり満たされていたり、こんなに私を泣かせたり、武衛的女性感覚の表現の特色が垣間見えるところです。
簡単に言ってしまえば、男女の愛は潮が満ちたり引いたりに似ているのよね、ということでしょう。
それだけではあっけなさ過ぎますので、少し詳しくみていくと、イイんでないかいというところが随所にあります。
「ふしぎなことね 楽しい頃も なぜかここがさよならの景色の 気がしてた」
こういうことって、ありますね。
私もかつて、世界の悪を睥睨するといわれるネパール・スワヤンブナート寺院の一室から、暮れ行くカトマンズ盆地を眺めながら、親兄弟と別れることになってもこの地に住みたいな、などと思ったことがあります。
そのときの精神状態と景色と、なにか波長が合ったかのように思えました。
この歌で言えば、海のようなやさしさで幸せに満たされていると、その後が怖い、という女性感覚がこのような表現となったのでしょう。
武衛さんの世代(ってよく分かりませんけど)であれば、森山良子のこの歌に共感しているはずです。
【恋人】 作詞: 山上路夫/作曲: 村井邦彦
(音が大きいので、ご注意。ボリュームを絞ってから、ON)
あなたの肩に もたれていても 時は過ぎてく 音も立てず
愛の記憶を 残しただけで 時は遠くに 消えるの...
ひとは何故に 死んでゆくの 恋人たちさえも いつか...
山上路夫はさすがに男ですから、ずばり「死と恋人たち」を対比させ、心的限界状況における恋心を鮮烈に切り取っています。半端ではないところが、インテリゲンチャーですね。
山上は、これに続けて「とわの命→時を止める→今を生きる」というように、かなわぬ思いを実存レベルまで収斂させる、印象的な歌詞を書いたわけです。
愛し合った 二人のため 永久(とわ)の命だけが欲しい
あなたの腕に 腕をからませ 時の流れを止めてみたい
それがかなわぬことならせめて 悔いない今を生きるの
私も、学生時代、下宿の部屋で、彼女がこの歌を口ずさんだことを想いだしました。
ただし、彼女は「時の流れを 止めてみたい」という思いにとらわれていたようです。
改めて聞いてみると、エンディングが実にはかない感じでスゥーと終わっているのが、いいですね。
この辺のところを、武衛さんは「だけど 心の波立ち 愛が引き潮」と表現した。
武衛的女性感覚表現、すばらしいです。男には、こういう表現はできないだろう。
わたし的には「心の波立ち」というところに、深い共感を覚える。
俗に潮読み5年といわれる磯釣りをやっていますと、潮が騒ぐという潮時を必ず経験します。
上げ潮が引き潮に変わるとき、そして引き潮が上げ潮に転じるとき、静かだった海がざわつき始めます。大潮の日でも、小潮でも中潮でも波立つ。長潮の時はそれがはっきりしないので、釣りには不適ですけど。
この時は魚も本能的なものが動き出すのでしょうか、警戒心の強い大物が魔がさしたように不用意に餌に食いつきます。(釣りのブログではないの!)
大自然の神秘を見るようですが、海から陸に上がったとされる人類も、潮変わりに本能的な波立ち感覚が起こるのだろうなと連想しますね。
女性は体質的に月の満ち欠けに生理的リズムが合うようですので、当然潮の満ち引きにも生理的な感覚で感応するのではないでしょうか?
ですから、女性感覚を表現する武衛さんが海のイメージを言葉にすると、ほとんど本能的・生理的レベルでの表現が出てくるのでしょう。
そういったものを、わたしはこの歌詞に感じる。
あの、満ち潮から引き潮に変わる2、30分の海の表情の変化、静かにざわめくのですけれど、そのイメージを喚起させられます。
そして作曲家の和泉常寛さん。優しいおじさんという感じですね。
このような女性感覚を理解できそうな方だと思います。
勝手に想像するに、和泉さんのイメージする海は瀬戸内海だな。
波は穏やかだけれども、潮の流れは複雑で急変しやすい海。女性の心もやはり...
少なくとも、わたしがイメージしてしまう外房の荒々しい海ではないでしょう。
ひとつの歌にはいくつものパーソナリティーが重なり合って、彩(いろどり)をなしていきますが、この組み合わせは面白いなと感じます。それで、このようなしみじみと味わえる良い曲が生まれた。
この「海のようなやさしさで」は、どう考えてもシングル曲として出すべきだったよね。アレをやめて、こっちにすれば良かったのに...。って、なんツー曲かな?
ひとみちゃんのこの歌を聴けば、しみじみと心が潤いを取り戻す感じがします。
でも、男はこのように、女の子をどっかで泣かせている立場なのだけど、そこはまあネ...
石川ひとみの歌い方、本当に格調を感じるほど端正な歌い方で、イイです。
で、一つ気になるのは、「あーなたとのときー」で、あまり口を開かずに「あー」というのだけれど、次の「あなたの気配」では正しく口を開けている。
「あなた」が2回続くので、雰囲気をかえているのかな?でも、
「あなたが そっと 私の肩に」は1回しか出てこないのに、やはりあまり口を開かずに「あー」と発音しているね。
この発音が、ちょっと、気になるなァ。
どういうつもり、、なの?
コメントする