『タイトロープ』 岡田冨美子の意味喩の世界

 プロモーション問題で少しシビアに見た岡田冨美子さんの歌詞について、鑑賞者の立場でできるだけ客観的に取り上げてみたいと思います。
 岡田さんの歌はすべてシングルA面でリリースされており、5曲ありますが、この歌詞だけが『くるみ割り人形』のB面扱いです。

 シングル曲とLP曲の一覧を作っていて気づいたのですが、岡田さんの歌詞にはいくつかの特徴が見られます。

 第一の特徴は、歌詞が先に書かれて、曲が後からつけられているのではないか、という点です。

 この曲でいうと「行きは良い良い 帰りはこわい」という部分。
 歌詞が先にあるのでなければ、わざわざ童謡のメロディーを間に挟んだりしないのではないかな。

 作曲家は言葉の修辞的なことを考えてメロディーを作ることは通常ではやらないことですので、
 この曲の場合は歌詞が先にあった、と考えるのが妥当でしょう。

 「秋が燃える」でいえば「あっ まだよ まだよ」という特徴的なフレーズがやはり、同じような感じですね。

 「恋」については、資料からも、歌詞が先にあって、玉置浩二が何度も曲をねりなおしたという。

小柳ルミ子「乱」では、歌詞の書き直しをやっていますので、先に歌詞を書くのが岡田さんの流儀ではないと思います。
 多分、ディレクターの注文があって、それを器用にこなしてしまう才覚の持ち主なのではないかと。


 第二の特徴は、意味喩を多用して奔放にイメージの展開を図る表現ですね。

 この特質はどこから来るのかと考えてみると、
 外国のポピュラー音楽を自由奔放に日本語訳した漣健児の影響かと、行き着きます。

 原曲の意訳という制約を離れ、時には創作的なものを加えてしまう漣健児。
 その歌詞翻訳を作詞家としてのスタート期に見ていた岡田冨美子さん、
 その奔放さを歌詞の意味喩転換に駆使しているかと。

 つまり、「外国語→日本語」の自由奔放な翻訳(転換)を、
 日本語歌詞で、「イメージ→意味喩」の自由奔放な転換として、
 ごく当たり前のように歌詞つくりに取り込んでいったのではないか、と思う。

 漣健児は、翻訳というものの限界を前提として、
 外国語の負っている固有の文化的伝統を捨象せざるを得なかった。

 それを踏襲したかと思われる...
 作詞家岡田冨美子は、日本語が負っている文化的伝統にとらわれず、奔放に自分の想像力をふくらませる。

 「文化を踏まえた上で」ではなく、「伝統にとらわれず」奔放にやるところに、看過できないものがあると思うけれど、歌詞の世界ですから...。

 それで、岡田さんの意味喩は、リアリズムというものに、最初から重きを置いてはいない、
 ...ということが特徴なのだと思う。
 本当らしく見せることが大事なのだ、と大衆歌謡歌詞の本質を捉えて書いているようです。

第三の特徴は、歌詞は歌の影に隠れてしまうもの、ということも熟知し、割り切って、
 印象づける時にはハイプ(大げさ)な表現も辞さない、という自由闊達さということでしょうか。

 以上のことを最低限踏まえておかないと、岡田冨美子的メタファーは本当には理解できないだろうね。



石川ひとみ 『タイトロープ』 (1978.09.05)
作詞:岡田冨美子、作曲:馬飼野康二、編曲:大村雅朗
『くるみ割り人形』のB面収録


tite_rope.gifタイトロープとは綱渡りのこと。大輪茂男プロデューサーの対位法的演出です←→「くるみ割り人形」。

歌にエコーがかかって、非日常的虚構性の雰囲気を醸し出しています。

石川ひとみ「セクシーサイン」と日本語で軽く流してくれた方がいいかと思いますが、ディレクションがあったのでしょう、「Sexy」と発音していてます。

石川ひとみ的にサラリと歌った方がいいかなと...

この歌は文字通りセクシー路線だと誰でも分かりますが、岡田的メタファーが表象するものは明瞭には気づいていないのではと思います。

この歌は「秋が燃える」と同じ系統の歌です。

 
 「ヘアピンカーブ ノーブレーキで
 曲がりきったら あとはストレート」

 私は車好きですが、こういうことはあり得ないです。
 ヘアピンカーブをノーブレーキってどういうこと?
 大村雅朗のアレンジもGTレースを思わせるノリで、牧歌的にのんびりドライビングしている訳ではないようです。

 次にくるストレートでの立ち上がりを素早くするためには、エンジンの回転を落とさずに速度だけを落とす必要があります。そのためには、シフトダウンをして、ブレーキをかけながらアクセルをふかすという「ヒール・アンド・トウ」をやらなければ。

YouTube に佐藤琢磨のテクニック動画がありますけれど、せわしなくこの操作の連続ですよね。

 知らない人は、レース場でマシンのエンジン音が落ちないことから、
...ブレーキをかけずにカーブを曲がっているように思いがちですけれど、
...エンジンの最高出力域の回転数を保ったまま、マシンのスピードダウンを行って回っているわけです。

 私は、RD50というピーキーな出力特性をもつ、原付スピード・レーサーバイクで、この感覚を身につけました。

 最高出力回転域を外れると、とたんに馬力が落ちてノロノロと走る羽目になる。

 参考までに「ヒール&トウ」の一発動画でも...

 

 こういう感じですね。それで、必要とあればブレーキングしながら逆ハンドルをきってカウンターを当てながらテールを流すドリフトも行う。

 いずれにしてもノーブレーキなどということは、あり得ない。
 こういうリアリテイーのところはさほど重視していない、意に介していないように思う。
 
 他の歌でも目につくところがあります。
 これまで指摘してきましたように...

 『恋』の歌詞でいうと、「過ちで結ばれる」という言葉のアヤの問題。結ぶ=産霊、という文化的背景を捨象した、言葉の用い方の軽重。
 『夢回帰線』でいえば、「誰か今 優しい男がいたら 崩れてしまうわ きっと」という、メロウなメンタリティーは、ほとんど成立する余地がないという現実の捨象。

 岡田さんはメタファーで表象したいものを最優先するために、そういったことには重きを置いていないのではないかと。
 そういうものの整合性を高度に一致させることにさほど拘泥していない。


 岡田さんはそういうタイプではなく、作詞家に必要なキーワード・マーケティングという実務的才覚の持ち主なのかと思います。

 岡田さんの想像力の源泉は他の言葉情報、つまり小説であったりコピーライティングであったり、ということかもしれません。実体験からくる実感的リアリティーは、あまり感じない軽味のある歌詞。

 たとえば村上龍「リオ・デ・ジャネイロ・ゲシュタルト・バイブレーション」では酒場の女レダはシボレー・カマロを運転しながら「カーブでスピードを緩めるワーゲンなんてお尻をつぶしてやる」と考える。

 しかしこの文章の前後の文脈を見れば、...

 「赤信号で止まる奴は運転なんかするより首をつって死んだ方がいい。転がるボールを拾おうと道に出てくる子供はボールと一緒に空高くはね飛ばすべきだ。買い物袋から落ちたオレンジを追いかける老婆はひき殺されたくてしょうがないのだ。...」という前文がある。

 そして「車間距離を二メートルもとる車なんて手榴弾を投げ入れてやりたいわ」という文章が、お尻つぶしの怪気炎の後に続く。

 あり得ない話に、可能な限りのリアリティーを持たせた寓話なのだ、という前提があります。
 この文の後に「ヘアピンカーブをノーブレーキで曲がりきったら、あとはストレートだ」と挿入したとして、何の違和感もない。

 そういう寓話的世界レベルの表現を、いきなりぽんと提示して、それで通ってしまうのは、これが歌謡曲の歌詞であるからだ。

 寓話というのは、その表象するものを導く表現以外の要素を可能な限り排除して、ある種の単純化した様式を獲得する必要がある。
 歌詞の場合は、ほんの数行で終わってしまうものだけに、最初からそのような様式となっているわけで、リアリズムでも寓話でもOKよ、ということになる。

 ですから、岡田さんは量産ができるし、作詞家協会の理事として著作権問題ではそのビジネス感覚で著作権者の利益保護に力を発揮しておられます。

 ということで、岡田冨美子さんの歌詞は、字面の意味を考えてもほとんどその意図はつかめないかと思います。

 「ヘアピンカーブ ノーブレーキで」なんて「現実にあり得ない」言葉に本当の意味はないのでしょう。
 では、何を表現したいのか?ということになります。


 あからさまに言ってしまえば...石川ひとみファンから文句が来るかもしれません。
 
 これは性行為そのものを言外に匂わししているのだと、わたし的には解釈されます。

 ヘアピンカーブを360度近くマシンを回した後、ストレート...
ferrari.gif
 言外に匂わしているのは、例えば暴れ馬のフェラーリを
  グイッとマックスターンで「の」の字型に一回転させたあと、
  ストレートを全開バリバリ、、、とかね。

 もう、彼のマシンはフェラーリ級の暴れ馬なので、いうことをきかなかったりするわけですね。
                  
 ん?...何のこと?                     フェラーリなのだ→


 いくら何でも、勘ぐりすぎだろうと思われるかもしれませんけど、言外に匂わせているということです。

 岡田冨美子的な意味喩で書かれた歌詞の典型ではないかな。
 文字通りの(オモテの)意味が不明ですから、深読みすればウラの意味が浮き出てきてしまう。

 そう考えれば、

 「私をきらめく星にして」...私を昇天させてね、と。
 「背中が痛むわ」...何故?表の言葉では意味不明。裏の意味なら、いろいろ想像してしまう。
 「張りつめてる」...何が?表の言葉では意味不明。裏の意味なら、いろいろ想像してしまう。

 「私をはじいて」...表の言葉では意味不明。裏の意味なら、いろいろ想像してしまう。
            「ギターのように愛されたい」で書きましたが、ラスゲアード・ドブレで、かい?と。
 「イったきりでバイバイかもね」...表の言葉では意味不明。裏の意味なら、いろいろ想像してしまう。

 「ああー」...???表の言葉では意味不明。裏の意味なら、いろいろ想像してしまう。

 「私 泣くかも しれないけれど いいじゃない いいじゃない」

 ...ちょっと、くどくど説明しすぎました。あくまでも、言外に匂わせているということですけれど。


 それで、
 「トンネル抜けて 来た二人
  やきもちなんて いかさない」

 「トンネル抜けて 来た」というのは、二人の間にもめ事のような「暗いイメージを持つ、長い期間」の経緯があったことを示唆しています。

 トンネルを車で走ると、はじめは後ろの方が明るく、バックミラーに映る。
 彼は当然前を見て運転しているのだけれど、気持ちは過去(の女の幻影)を見ている、という意象。

 出口近くなると、今度は前だけが明るくなり、過去(の女の幻影)は消えていき、今があると。
 
 ここには書かずにおいた部分が多いのだけれど、その省略は作詞者のイメージでは明確で問題ないと見ているのでしょう。けれども、こんなふうにおつき合いする人は普通いないと思うゾ。

 「 やきもちなんて いかさない」...「イカす」の否定語ですけれど、一瞬意味が分からないかも。
 ここは、「わたし」の独白ですね。カッコイイか、カッコワルイかが判断の基準になっているというのは、今の風潮にはよく合っていて、30年前としては先進的かもしれない。

 石川ひとみは「フーテンの寅さん」のファンだったし、
 吉永小百合は「ジャガイモのような素朴な男性が好き」とか言って、
 「いかさない」ものを、あえて好むことに知性があるという考えが結構支持されていましたからね。


 それにしても、岡田冨美子さんの歌詞は、解釈しなければ意味が不明瞭だし、解釈すると身もフタもない意味喩なのだということになる。
 今の時代の歌だったら、意味不明が当たり前みたいな風潮があり、受けるのでしょう。
 
 これを岡田的メタファーと言ってはいけないのかもしれません。
 
 クライアントから「セクシーなイメージが連想されて、かつスポーティーで爽快感がある歌詞を書いてくれ」という、ほとんどあり得ないような無理な注文を受けて、岡田さんがその才覚で書き上げてしまった歌詞、とでも解釈すべきでしょうか?
 

 ともあれ、こういうカモフラージュで、「くるみ割り人形」と組み合わせるプロデューサー大輪茂男の感覚を、彼の功罪の例だと指摘しておかねばいけないでしょうね。

 しかし、曲をつけて、軽快なリズムで、「くるみ割り人形」の石川ひとみが歌えば、だれも変には思わない。

 けれども冷静に聴けば「ヘアピンカーブ ノーブレーキで 曲がりきれず みんなあの世行き」としか、考えられないはずだけどね。「リオ・デ・ジャネイロ・ゲシュタルト・バイブレーション」のような狂気の寓話的世界にそのまま溶け込む。

 シュルレアリスムのだまし絵のような歌なのだ。
 大輪茂雄のイメージにはなっているかと思う。

 でも、わたしとしては、岡田冨美子さんには『にわか雨』みたいな歌詞をいっぱい提供して欲しかったと思います。
 ワインを飲む大人にマッチしない歌詞という不自然さを解消してくれれば、とは思いますけれど。
 それこそ、イイじゃない、イイじゃないと歌っても、ひっちゃんOKだよね。

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