『まちぶせ』から『三枚の写真』へのプロローグ

 『まちぶせ』の大ヒットを経て注目が集まる次の曲のリリース。
 ひとみ陣営が次の一手として選択したのは、スローバラード風な『三枚の手紙』。
 これも三木聖子の曲のカバーだった。
 
 「もうすぐ 私きっと あなたを振り向かせる!」と歌い上げた『まちぶせ』の次の曲ですから、大多数のファンは恋の成就あるいは青春ソングにふさわしい歌を予想し、期待したかと思う。

 ところが、大方の期待は見事に外れ、恋の季節を通過してしまった切ない失恋の歌だった。

 ちょっとォー、「春になったら やさしい口づけ あなたにあげるゥー」と『ミスファイン』で歌っているのに、春も夏も通り越して、過ぎ去った思いでを回想する失恋歌? Σ( ̄□ ̄;うっそ!!


 CD-BOXにある長岡和弘の談話では、渡辺晋の意向が強く働いたとありますが、どういう意図があったのだろうか?

 どうも単純に「二匹目のドジョウをねらった」ということでは、説明がつかないように思う。
 その程度の解釈では、表面的な事実を別の言葉で言い換えたに過ぎないでしょう。

 私がみるところでは、「二匹目のドジョウ」は決定の動機ではなく、決定の結果が「二匹目のドジョウ」になったに過ぎない、と。


 日本の音楽業界を近代的音楽ビジネスに育て上げた渡辺晋、それほど単純な人間ではないでしょう。
 最終的な決定権は社長であるナベシンが握っているわけですが、ナベシンがそう指示したとしても、本当のところはナベシンを動かした動機が別のところにあったのではないかと思う。

 人の行動には必ず動機というものがあります。
 たとえば、裁判でも、ある(犯罪)行為についての事実認定と同時に、動機の解明というのが重要な判断材料となります。その行為を説明しうるに足りる合理的な動機あるいは理由を解明できるかどうか、です。

 ナベプログループの頂点にいる渡辺晋には、全ての情報が集まってきますので、自ずと大局的に物事を見ることができる。
 現場サイドの生情報で考えるスタッフたちとは、判断の置き所が当然違うだろう。上に行くほど、下の人間は目先の判断しかしていないことを痛感するものだ。

 ここで、『まちぶせ』で自己主張をした石川ひとみはどう考えていたのかを、少しばかり参照してみたい。

 【自分の歌がわかってきた】

 『まちぶせ』が大ヒットした石川ひとみ、『三枚の写真』は自分が歌うべき歌だと感じたという。

 既出「石川ひとみエピソード」記者インタビューの続きを引用します。

石川ひとみ
    松任谷由実さんの曲っていうのは、以前にはあまり聴いたことなかったんです。

記者 『まちぶせ』がヒットしてから、歌に対する気持ちは変わった?

石川ひとみ
    変わったということはないです。ただ、これからうたいたい歌が自分にわかってきましたね。
    地味なっていうんでもないけれど、あんまり軽く歌うのでなく、
    しっとりしたものが合ってると思うんです。

記者 『まちぶせ』でファン層も広がったんじゃないかな?

石川ひとみ
   エエ、ローティーンの人から、年配の人まで、いろんな人が聞いてくれたみたいでですね。
   もともと私のファンの人って、キャーキャーいうタイプじゃなくて、静かにちゃんと聞いてくれる人が多いの。

記者 『三枚の写真』はどう?

石川ひとみ

   大好きです。
   これも、私がうたうべき歌だって感じがあります。



 どうも、この辺がキーポイントだなと思うけどね。 

 石川ひとみは三木聖子の『まちぶせ』を聴いたとき、『三枚の写真』も他の曲も聴いていて、この二曲を大変気に入ったのではないかな。

 最後の曲にするなら『まちぶせ』がイイと。それで、『まちぶせ』が大ヒットをしたので、『三枚の写真』も手がけてみたい、早く歌いたいなとはやる気持ちを抑えるほどだったのだと思う。

 渡辺晋は、石川ひとみがもっとも信頼し頼っていたのが杉山であることを知っており、キャンディーズの「さよならコンサート」から、「ほほえみコンサート」までことごとく成功させている手腕に一目置いている。

 そして『まちぶせ』新曲選定会議で、石川ひとみがとうとうと意見を述べた背景をある程度分かっていたので、デビューから9作目まで石川ひとみの曲をヒットさせることのできなかった制作陣の意見よりも、石川ひとみの二人三脚の方を選択したのではないだろうか。

 もちろん理由はこれだけではないはず。
 経営者というのは、意志決定の全責任を負う立場なので、実にいろいろなことを考え、気を配るのが普通だ。

・つらいキャンペーンをやり抜いて、大ヒットをつかみ取った石川ひとみへのご褒美として、彼女の希望をかなえさせてやろうという親心。

・杉山は、もともと劇団の演出家で、ファッションショーやコンサートの演出もやるようになり、その才能は業界でも評価が大変高いということ以外にも、強運を呼び込むエネルギッシュなものを重視した。

 組織のトップというのは意志決定をするとき実に孤独なものですから、運とか勢いという不合理なものを意外と重視したりするものです。

 こういう心の中で考えている部分は、現場スタッフには言えない、というか言ってもしょうがないものがあるだろう。だから口にはしない。
 そういうことはスパッと端折って、「二匹目のドジョウでいけ」と、強引とも思える号令を下すほかないのだ、と私はナベシンに共感するな。

 ただ、渡辺晋は有能なディレクターやマネージャーがいなくなってしまったナベプロの現状を思い、彼らに勉強させるためにディスカッションをさせたり、口をはさんでみたりしていたようですが、結論は既に出ていたのだと思う。

 こういうトップの考えというのは、現場レベルの人間には理解しがたいところで、いろいろ論議してきたものをあっさりと覆されたとか思うこともあるかと思う。

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