[秘密の森」 成熟を拒む無意識の少女世界

  デビューから歌手活動一時休止までのほぼ10年のナベプロ時代、最後の歌となった「秘密の森」。
総決算と言うにはそれまでとは趣の異なる歌ですね。


 石川ひとみ 『秘密の森』 (1986.4.5)
作詞:岩室先子/作曲:山田直毅/編曲:山田直毅

 【秘密の森】


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いかにも想像力派の岩室先子さんらしい入り。

「想い出した」
...というひとことで、一つの想像世界の舞台を作り出しています。

日常性とはほど遠い世界の歌ですから、通常ですと出だしでもっと説明的なものが必要ですが、それをスパッとひとことで、主題に入る。

手紙で言えば「前略」ですね。プレリュードはなし。

それで、いきなり「幼い頃の秘密」という主題提示。

裸足というのは自然なまま、という意象だね。

この歌詞には、一般の歌詞に見られる前ふりや本題、クロージングのようなカッチリとした構成は見られません。

そのような捨て石(囲碁の用語です)的な言葉は一つもなく、必要な言葉が無駄なく連なっている、という歌詞ですね。

「心乗せる 計りの様で息止めた シーソー」...
岩室さんが目の前にいたら、握手した手を左手で包みたくなる、部分です。

理科系人間のわたしとしては、上皿天秤的感受性と言いいたい。

子どもの頃の初々しく繊細な感受性を表現していますが、無神経な人間は平気でそこに体重計的感覚でドンと乗っかりますけどね。
 
「懐かしさ蘇る魔法は 少女のかけら集め」...

少女のかけらとは文字通り、こわれた少女性です。
その傷つき壊れたものは心の中の無意識世界である秘密の森に隠してあると。

「願い事と四ッ葉のクローバー」...
 ずばり言ってしまえば、「あの子のお嫁さんになるの」という願いであり、四ツ葉があらわすのは、「こうして二人は幸せに暮らしました、とサ...」というおとぎ話のエンディングになるのでしょう。


 この曲について石川ひとみは、レッツゴーヤングで何度も歌っているけどフルバンドなので、本来のスタジオ音源の方がいい感じなのだ、とか。
 ...ということで、レコード版をアップしておきます。



 たしかに、この曲はスタジオミュージック的で、メンバーが音作りを楽しんでいるという感じがします。テクノポップ的な繰り返しのリズムは、さながら電子音楽版祭り太鼓のような印象です。

 出だしのフェイドインは、夢の中にスーっと入っていくイメージがする。

 「森の木陰で ドン・ジャラほい」という小びとさんの歌を連想しました。
 「ドン」だけではなく、「ジャラ」の音もバックで鳴り響いていて、「おもちゃ箱をひっくり返した子ども部屋」的な賑やかさを演出しているようです。

 私は一応ピンクフロイドからYMOまで、シンセサイザー・サウンド曲も聴いていますので、この曲に対する違和感はありません。
 一つ言えるのは、ピンクフロイドで取り上げたことと同じことがこの曲にも当てはまりますね。

 この「秘密の森」は、アーキテクチャー志向ではなく、サウンド志向が勝っている曲作りになっていますので、イントロがあって、クライマックスがあって、エンディングがあるというアーキテクチャー的にカッチリとした作りではない、ということです。

 子どもの頃の夢の様な世界ですし、夢というのは明確な始まりもなく、明確な終わりもなくはっと現実に引き戻されるのが常です。
 だから、一般的な意味でのアーキテクチャーはなくて構わない、その方がしっくりくるということかもしれません。


 石川ひとみの声もエコーがかかっており、非日常性を演出しているのかなと思います。
 この歌に出会って、石川ひとみは純粋に気に入った歌をうたう喜びを味わう歌手に変貌していく。

 どことなくうれしそうな雰囲気を醸し出していますが、かといってアイドル時代の様なニコニコ顔ではありませんね。
 深く理解していないと、この笑顔の意味は分からないでしょう。
 内面的な相克から自分なりの森の小径を見いだし、本当に納得できる歌に出会え、それを歌っているふっきれた私...。

 めでたし、めでたし...

 ...
 ...
 ...
 ...
 
 とは、いかないようです。
 ここからは、プロデュースの問題に入っていきます。

 人生は童話の世界のままで終わるわけがない。
 目を覚ませば、現実というシビアな世界が広がっている。


 ファンの多くに理解されない、支持されないという状態になると、モチベーションが低下していくのは避けられないでしょう。
 特に女性は、水やりをしなければ萎れてしまう切り花のような感情の持ち主ですから、孤高の芸術家として突き進む個幻想的モチベーションではやっては行けないものです。

 ともかく、この歌には歌手石川ひとみの10年間のキャリアとその未来が、その背後に投影されているという感じが見て取れて、わたし的には無心に聴くことは出来ない曲ですね。

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