石川ひとみ的『まちぶせ』の世界

 石川ひとみが『まちぶせ』のエピソードを語る時、「実は私も、高校生の時似たような体験があり、すごく共感できるし好きな曲だったんです」という話をしています。
 しかし、石川ひとみのまちぶせ体験は、荒井由美の歌詞とはほど遠い純愛だった、と思う。
 「好きな人の目にとまりたいな」という、若い子ならば誰にでもある欲求と行動の範囲のものだ、ということです。

 石川ひとみさんは食生活もベジタリアンのような和食党、野菜の煮物などが大好き。性格的にも、自分から「好き」だなんて絶対言えないという、オーソドックスな「菜食系女子」ですから。

 「好きだったのよ あなた 胸の奥でずっと」というのはあり得るけれども、
 「もうすぐ わたし きっと あなたをふりむかせる」というのは、無理っぽいね。


 石川ひとみの初恋は中学生の時。
 中学時代は、コートにかける青春風だったようですが、軟式テニスの練習はあまり熱心ではなかったという。

 「隣にバレー部のコートがあって、そこで私の好きな男のコがいつも練習してるんですよね。だから、わざとホームランを打って、ボールを取ってくださあい、なんて、こっちへ注意を向けさせようとしたり...。

 でも、結局は見向いてもくれなくて。邪念って、成功しないものネ。」
 ということです。

 時には学校の自転車置き場で、友達と話している時に彼が現れたりすると、わざと彼のうわさ話をしたことなどあるようですけれど...

 そして、高校は石川ひとみが女学校に進みましたので、別々になりますが、高校の時に「その彼から実は好きだった」と知らされたという。
 しかし、この初恋は、石川ひとみが「君スタ」でグランドチャンピオンとなり、高校卒業後上京してナベプロからデビューするということが決まり、喫茶店で別れを言い、終わりをつげる。
 彼は、ずっと黙り続け、最後は怒って席を立ってしまったそうです。

 石川ひとみが高校時代に初恋の彼と喫茶店で会ったのはこの2回だけ、という。
 略奪愛はおろか、三角関係にもなっていませんね。
 『まちぶせ』のようなところまでは行かないようです。

 初恋が中学生という奥手ですし、ひとみちゃんはのめり込むタイプではないので、三木聖子の『まちぶせ』体験とは比較にならないと思う。

 この程度のことならば、中学生や高校生時代、ほとんど誰でもアプローチの一手段としてやっているでしょう。

 荒井由実の『まちぶせ』が待ち伏せというタイトルである所以は、

・(略奪)愛のためには、他者からもらったラブレターを「あなた」に見せて嫉妬させて気を引くとか、
・「あなた」が「あの娘」をフッたそうだけど、私の方から「あなた」に言い寄って奪ったりしたからではないわよ、

 ...などと、恋愛感情による逸脱あるいは迷惑行為さえも辞さない、という心的無法状態を描いているところにあります。

 言ってみれば「恋愛感情が持つ狂気」の部分を、まちぶせという言葉で表象しているということです。

 にもかかわらず、石川ひとみが「自分も同じような体験をしたので...」と言うのは、この歌が三木聖子のまちぶせ体験を、荒井由実が作詞作曲して、三木聖子に与えたという事情に配慮しているからだと思う。

 そのへんの配慮は再度アレンジに参加した松任谷正隆と近しい長岡和弘が十分に伝えているはずです。
 1976年に荒井由実と結婚している松任谷正隆はリメイクに意欲たっぷりだったそうですから、三木版『まちぶせ』のアレンジを、「石川ひとみ版ではこうしようと考えているけど、どう思う?」というディスカッションをしていないわけがない。

 ミュージシャンの夫婦ですから、音楽のことでは徹底的にディスカッションするものです。
 ナベプロへの提供曲であるし、松任谷由実としては、三木版アレンジャーである夫の正隆に任せるしかないでしょう。

 それで、異論があれば、自分自身でセルフカバーを出せば良いだけの話です。
 で、ずっと後になって(1996/7/15)セルフカバーを出すわけです。

 これは石川版への異論というわけではなく、石川ひとみが病気に倒れ、再び埋もれかけた『まちぶせ』を、自分ならこう歌うという意味の方が強いのだと思う。

 だから、思い切って自分らしさを出し切っていて、エンターテイナー松任谷由実にふさわしい仕上がりになっている。松任谷由実版『まちぶせ』は、彼女の曲作りの意図がはっきりと分かりますので、稿を改めて、取り上げておきたい。

 『まちぶせ』が、ただ単に良い曲だから石川ひとみがカバー曲として歌う、というのでは、荒井由実の意にそぐわないと考えたからこそ、石川ひとみの淡い体験を、多少無理して『まちぶせ』に結びつけた、という感じがします。

 いろいろ情報を付き合わせてみると、石川ひとみの『まちぶせ』体験というのはプロモーションのための作文というところかな、と考えるにとどめるべきでしょう。参考資料は「ファン・ノート」で紹介済み。

 渡辺プロのプロモーション記事...雑誌 『ボム』 (1981年12月)
 石川ひとみさんの回想記...雑誌 『サイゾー』 (2002年12月)


 まあ、そういうわけですから、自分の実体験である三木聖子の『まちぶせ』の方が、そういう情念の強さが表れている、という三木ファンの印象と合致するのだと。

 三木聖子は「恋愛感情が持つ狂気」の部分を持つレンアイ体質なのだ、ということでしょう。
 だから売れ始まった矢先にもかかわらず、さっさと結婚して引退してしまう。


 石川ひとみはひとみ版らしく、くどくならないようにさらりと歌うように、意識してやっているのですね。
 それはなぜかといえば、松任谷正隆がアレンジし直した背景があるからなのだろうな、と思う。

 その推移については、松任谷由実版『まちぶせ』で触れておきたい。

コメントする

関連ページ&リンク

         「ていすとオブFavorite」

         「お知らせ」(記事 1)

最近のブログ記事

Ishikawa Hitomi "Nagori Yuki" Part2
 石川ひとみ『なごり雪』 from [ …
石川ひとみ 「長そでのカーディガン」
 石川ひとみさんの再起第一作のCDアルバ…
陣営とは何か?大衆音楽のダイナミズム
  わたしがこのブログを始めた…

カテゴリ別タイトル一覧

アイテム

  • aokei.gif
  • kumokei.gif
  • nagasodeno_cardigan.gif
  • ie.gif
  • kayoukyoku01.gif
  • culture_dynamism01.gif
  • shop_around.gif
  • hitominoasa.gif
  • mercy_stew.gif
  • tadaima2.gif
  • kanshou.gif
  • roman_ha.gif
  • koten_jidai.gif
  • youtube.gif
  • hitomi.jpg
  • si50286.gif
  • feed.gif
  • atom_ff.gif
  • atom_ie.gif