松任谷由実的『まちぶせ』の世界

 いくつかの視点から石川ひとみ『まちぶせ』を取り上げてきましたが、原作者の世界から取り上げておかねば、理解できないものがあるなと思う。

 恋をしている女の子の「ある種の狂気的感情行動」とはいえ、
・「気のないそぶりして 仲間に加わった テーブルをはさんで あなたを熱く見た」...あの娘が許さない!
・「別の人がくれた ラヴ・レター見せたり」...嫉妬かりたて作戦とはいえ、常軌を逸しすぎる問題行動!

 これは三木聖子の実体験だったのかもしれないし、そうではなく荒井由実の創作だったのかもしれない。
 どちらにしても、第一次アイドルブーム期にデビューした三木聖子の歌としては、かなり問題とされそうな表現だよね。

 それで、三木聖子が実感を込めて歌うほど、このような表現がリアリティーを持ってしまう。
 作詞・作曲者の意図はどうなの?というものが、後をひくのではないかな。

 そこで、今回は荒井由実のこの歌詞の表現の問題を見ていきたいと思う。


 荒井由実の歌詞にある視点の距離感については、前の記事で十分述べましたので、その部分を省略して話を続けます。

 起承転結の構成の出だし、カメラアイは二人を捉えた後、「あの子が急になぜかきれいになったのは...」とフォーカスを絞る。

 このズームの連続性は、二連目=「承」の歌詞(あの子が----会ってるからなのね)が作者の視点でもあるようだし、私の視点でもあるような曖昧さのまま、三連目で「好きだったのよあなた...」と明確に私の内面的視点となります。

  なぜ曖昧なのかと言えば、「こんなふうに」の「こんな」という言葉が、至近距離で見ているようにも、あるいはその逆にあたかも超越的存在(神、あるいは 天、仏様)がこの情景を手のひらの上にのせて見ているようにも解釈できる両義性を持っているからです。これは作者の視点ですね。

 街角という指示表出性の風景描写から始まって、ズームインして、意志的選択であるフォーカスがあり、内面的自己表出に至る筋道の付け方ですね、これがこの歌詞に芸術性をもたらしていると評価しておきたい。
 これは、表現として上手くいっているかどうかということではなく、メタファーを用いずに転換をはかる方法論的な試みという部分での評価ですけれど。

  純粋詩では、客観的描写から自己表出に至る過程で、喩を用いて転換をはかるという方法をとるのが普通ですけれど、荒井由実は何の比喩的表現も用いずに指示 表出性から自己表出性への転換をなしえている。このような目に見えない転換でニューミュージックの表現をここまで拡張してみせたのは、荒井由実の功績なの ではないかと思う。

 それを可能にしているのが、荒井由実の言葉の選択力がもたらす意味的つながりの強固さなのだと思う。加えて、カメラアイのようなズーミングの巧みさが、この場合大きな成功要因となっていることは言うまでもない。
 ニューミュージックの歌詞表現としては、最も優れた芸術性を獲得していると、私は思う。


 そして二番の歌詞ですけれど、これは一番の情景描写とは全く異なって、端的に言ってしまえば一番の歌詞の脚注という性格を持っているのだと思います。歌としては一番で終わっていて、二番は脚注...そういう構成ですね。

 二番を注意深く読めば、諸々のことが説明されている、といってよい。大変周到に準備されていると感じます。

 「あの子がふられたと 噂に聞いたけど
   わたしは自分から 言い寄ったりしない」

 ずいぶん空々しいセリフだなと、感じるかもしれません。

 清純な石川ひとみにはおよそ似つかわしくない部分ですが、三木聖子に当てはめても、かなり違和感があろうかと思う。あからさまに言えば「したたか」である、と。ぶりっ娘してごまかせるようなことではないでしょう。
 男でしたら「お前もワルよ、のうー」と言いたいところだな。

 なぜ、このような白々しいことを2番で述べるかというと、その意図は次の歌詞で分かるようになっているのですね。

 「他の人がくれた ラブレター見せたり
   偶然を装い 帰り道で待つわ」


 「これは25歳過ぎた大人の女の、18禁・コミュニケーション・ストロークなのよ。」
 ...ということを暗に示しているのでしょう。


 この二番の歌詞は、ずばり言って三木聖子の原体験に即して書いたというより、荒井由実の感性で書いているのだ、と私は解釈しています。

 原体験なのか、そうでないのか...。
 どちらであるにせよ、それを表現として定着させているのは作詞者の選択的意図である、と。

 それで、一見続いているように見えながら、二番は荒井由実の世界になっている。
 はっきりと言ってしまえば、「大人の女が、男を仕留める、軽い遊びのようなゲーム感覚」という趣がある、ということです。

 それは、荒井由実の歌を見れば理解できると思いますが、あくまでもエンターテインメントとして歌っており、「好きだったのよ あなた 胸の奥でずっと」以下の自己表出部分をグッと抑えて、距離感をもってサラリと流している。

 ですから、わたし的にこの二番は、「狙った男はこうして仕留めるのよ」くらいの、熟女のコミュニケーション・ストロークだという説明をしているのだな、と解釈されるわけです。
 感情表現に距離を置いて、ある種の軽さを確保して、遊びのような色彩を醸し出しているな、と。

 そう見ていくと、「他の人がくれた ラブレター見せたり」という一節は、現実的な行動を意味してはおらず、女が男を仕留める手練手管を象徴的に表している表現なのだということになります。

 それにもうひとつ、さりげなく仲間に加わって、彼女の目を盗んで、あなたを熱く見る行動だけど、
 ...スリルを楽しんじゃって、コノー!という、大人の女の余裕といたずらっぽい行為、という雰囲気もあるね。

 だからこそ、あえてストーカーっぽい「まちぶせ」というタイトルをつけて、歌詞全体を様式化してしまっているのではないかと思う。

 元来が、ストーカーはそっと後をつけるのが本来的な意味で、待ち伏せはストークではない。
 そして、この歌詞全体が三木聖子の実体験を昇華させて、大人の女のコミュニケーション・ストローク的寓話にしている、という意図があるのではないかと思う。

 要するに、一言で言ってしまえば「大人の女(肉食系女子)のしゃれた歌」にしたかったのだと。

yumin_mabu.gif

 狙い撃ちで、仕留めにいっているという感じです。

 荒井由実は手話を交えながら歌っていますので、その意味が第一義でしょうけれども、ピストルで狙い撃ちという軽いジョークの意図もあるのではないかな。こういう遊び心は、確かに大人の感覚だよね。

 ですから、ストーカーっぽいという話も、人の手紙を見せるなんて倫理的な問題が残るとか、そういう話は「お遊びの話よ!」の一言ですんでしまうものなのでしょう。二番の歌詞については

 なので、『まちぶせ』の歌は、情念とリアリティーをあまり感じさせる歌い方は作者の意図からは離れてしまうだろう。軽みがないと、本当の狂気になってしまう。

 つまり、一番と二番の歌詞がつながる展開において、「一番が純愛で二番はしたたか」ということになっては、その落差・違和感を払拭できない、破綻しているということになる。
 一番も、二番も狂気であるべきか、それとも遊び心であるべき、という方が表現としては自然だね。矛盾がない。

 当然、エンタメとして歌っている作者の荒井由実版が一番意味的には正しく、実感を感じさせる三木聖子版は三木聖子のレンアイ体質に秘められたある種の狂気性が通奏低音となる、ということだね。

 この二重視点を持つ『まちぶせ』を、石川ひとみは純愛として歌いきってしまった、ということになるかな。


  ひとみ版『まちぶせ』では、編曲の松任谷正隆は三木聖子版とは入り方を変えましたが、「ジャジャジャン、ジャーン」という入りは、「あら!あの人と、あの子だわ!!」という驚きの意象が感じられて、「違うんじゃない」とか妻である荒井由実(結婚後、松任谷由実)に指摘されたのでは、とちょっと想像してしまうのですが...。

 それで、ひとみ版は距離感を感じさせる軽い入りに改めると同時に、気心しれたディレクターの長岡和弘には「思い入れを込めすぎない方が良い(と由実がいっている)」というような話をしたのではないかな。(想像しすぎだとは思いますけど、ネッ)

 ともあれ、過剰な思い入れを排して、クライマックスの部分だけ「好きだぁーったのよーあなた」と情感を込め、後は淡々と丁寧に歌い上げる、という演出をしたのだろうなと。

 いわば「男の仕留め方」みたいな熟女の歌、あるいは恋愛感情が持つ狂気性を、純愛歌に転換して石川ひとみ流に歌うわけですから、自己表出の部分以外は、淡々と歌うしか、二番の歌詞がもつしたたかさを打ち消す方法はないでしょう。

 でも、なんだかんだいっても、最後はひっちゃんのかわいらしさが七難を隠してしまうのですけれど。
 誰も、歌詞の意味なんか考えちゃいねェーぞー。目と耳が釘付けになっているからねェ。

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