石川ひとみ 「右向け右」(2)

 「右向け右」の作詞者三浦徳子(みうらよしこ)さん、この歌詞を作ったのは多分30歳前後ではないでしょうか。
 もっと年配なのかなと想像していましたが、生年月日は分かりません。
 お兄さんより年上ということはないので、その辺を考えて推測です。

 お兄さんは詩誌『ユリイカ』編集長から1975年『現代思想』編集長となった三浦 雅士(みうら まさし、1946年生まれ)ですから、その影響もあって現代詩の素養を持った人だと思います。

 ものを書く人は一筋縄ではいかない内面を持っていますが、三浦徳子も表現者としての醒めた目を持っていますね。

 「右向け右」は石川ひとみのデビュー曲ですが、内容は三浦徳子の世界なのだなと思います。

  石川ひとみ「右向け右」

  ・去っていく彼を追っちゃいけない
  ・ここまできた二人なら、今更どうにもならないわ
  ・そんなに信じられなきゃ、さっさと消えればいいでしょう

 精神的に自立している人にとっては、その通りとしか言えないのですが...、
 アイドル歌手の歌詞としては「それを言ったらおしまいよ」というものですね。

 これは三浦さん自身の世界観が図らずも露出している部分ですので崩せないわけです。
 表現者として譲れない。

 しかし読む側では、「それはそうだ」と肌寒いものを感じるかもしれない。
 可愛らしいアイドルの歌詞ではなく、自立した、時には厳しいセリフも吐く大人の女の言葉...

 三浦さんの歌詞に、それが現れてしまっているのですね。


 そして、「さっさと消えればいいでしょう」という表現は、さらに2つの問題点をはらんでいます。

(1) 怒りあるいは腹立ちの感情表現ですね。
  歌詞にこういうものが含まれるのはあまりないことで、再度山口百恵の「プレイバックパート2」と比較してみます。

 プレイバック!というのは、再生するという意味ですが、その裏にはCome again ! (もう一度、言ってみろ!)というイメージが込められていますね。女性の歌詞ですから、「もう一度、言ってみなさいよ」というところですか。

 交差点のトラブルというシチュエーションですし、Play Back ! という英語ですから、生々しい感情を引き起こさないことを計算しています。

 さすがにド演歌でも怒りあるいは腹立ちの感情を歌詞に込めることは少ないのではないかな。
 恨みで殺したいとかはOKなのですよ。それは好きという感情の裏返しですから。

 しかし、怒りの感情が込められた表現をもつ歌が、アイドル好きの人たちに受けるとはまず、考えられないな。一五一会版「右向け右」では、ここを独り言のように表現していていいですね。

(2)「それを言ったらおしまいよ」というのはどういうことか、といいますと「相手を突き放している」ということです。
  「さっさと消えればいいでしょう」という言葉、精神的に自立した大人同士であれば、柳沢慎吾のセリフのように男は「あばよ!」と言って、クールに去っていけばいい。

 それだけ。
 後腐れもなく、追いかけてこられる心配もなく、男はホッとして笑みが浮かぶほどだ。

 しかし、そういう関係であるならば、2番の歌詞は成り立たないけれど、それについては後ほど取り上げます。


 この歌はセシル年齢の女の子が残酷に言っているのだから、それでいい、許すという深読みもありますが、「セシルの部屋」はもっと後にリリースされているのだからねえ。


 宮城賢という詩人が、夫婦の諍(いさか)いについて書いた詩で「四隅をピンで留めておかねばいけない」という表現をしています。

 「夕食の後の 小さな諍い...」と始まる詩で、タイトルは忘れました。

 たとえ夫婦でも、それを言ったらおしまい、ということが厳然としてありますね。
 以下は、詩の言葉そのものではなく、昔からいわれている戒めのリストですが、

 ・相手の親兄弟の悪口を言う
 ・パートナーの人格を無視あるいは否定する発言
 ・相手の責任ではない身体的な特徴や欠点を指摘すること
 ・夫の稼ぎが少ないことを非難する

 あげればキリがなくなりますが、そういうことは心の中に戒めとして掲げて、

 宮城賢は「四隅をピンで留めておかねばいけない」と、詩で表現した。口に出してはいけない、と。

 若い男女の付き合いで、「それを言ったらおしまいよ」というものに「相手を突き放す」ということがあげられるだろうと思う。特に女性にとって、愛する人から突き放されることは、大変なショックのはず。

 それは、未熟な若い男にとっても同じですね。

 「さっさと消えればいいでしょう」というのは、そういった突き放した表現だということです。

 表現者三浦徳子としてはいっこうに構わない大人の言葉なのですけれど、アイドル歌手石川ひとみのデビュー曲の歌詞としてはシビアすぎるのではない?


 動画の左手に映っている黄色い服の方はひとみちゃんの、高校時代の担任の先生だそうですが、「純情なひとみちゃんが、こんな大人の歌を歌って!」と、思っているのではないかな。

 このような醒めた歌を歌ってしまえば、他の歌はみなそれがどうした?という感じになってしまいますね。

 『三枚の写真』...
 「ねえ、目をそらさずに 好き!って言える?」
 →「そんなに信じられなきゃ、さっさと消えればいいでしょう...」

 なんて感じで、みんな蹴飛ばすことが出来そうです。後の歌が困っちゃうよね。


 その点、天野滋の歌詞は、
 「言わなくて分かるけど 確かめたいのよ 揺れ動くこころには 言葉が必要...
  二人なら 生きてゆくことは出来ても あなたの温もりが まだまだ足りない」

 この歌詞には、そんなに信じられなきゃ...、などという無粋でシビアな言葉はありません。
 「二人なら 生きてゆくことは出来ても」というように、あくまでも四隅をピンで留めておく妥協をしながら、「でも あなたの温もりが まだまだ足りない」のよ、とやわらかくフォローしています。

 そんな言い方ないでしょう、という歌詞を天野滋は書かない。

 才気走った三浦徳子さんは、その辺をズバリと斬るような表現にしたために、19歳の石川ひとみの歌詞としてはふさわしくないものになった、と言えます。


  「右向け右」 歌詞解釈(3) に続く

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