石川ひとみ 『オリーブの栞』(1)

 石川ひとみ 「オリーブの栞」 (1981/4/21) 作詞:三浦徳子、作曲/編曲:馬飼野康二

 拓郎の『ハート通信』(アグネス・チャン)をカバーしてもヒット不発に終わった石川ひとみアイドル路線。

 1980年、原点に立ち戻って、再出発の意図があったのでしょうか、三浦徳子、馬飼野康二の『くるみ割り人形』コンビで、リリースしたのが『オリーブの栞』でした。

 イントロは「口づけのすぐ後で、急に無口にならないで」と大人の雰囲気で始まり、歯切れの良いテンポにしゃれた歌詞。
 おっ、イイじゃない、と思うのですが...


 少しだけ、歌詞の解釈をしましょう。

  『オリーブの栞』(1980年) 作詞:三浦徳子、作曲:馬飼野康二

   恋人がいること 昨夜誰かに聞いた
   あなたは笑って打ち消したけど
   女のカンで分かっていたわ

 一転して、三角関係という男女間のいざこざの歌詞を張りつめた声で歌い上げる展開となる。


 私としては「女のカン」という言葉が、あまり快くないな。

 「女のカン」という言葉は日常的にもよく使われていますが、手あかにまみれた俗っぽさを感じてしまいます。この場合、「女」というのはただの大人の女性ではなく、相手の男と一定期間「男女関係」にある「女」ということになる。

 ただのお友達では「女のカン」ということは言わないよね。それは千里眼のようなものではなく、付き合っている男の微細な変化から、裏の行動や隠し事を見抜く能力のことだから。


 歌謡曲の歌詞ですから、高度な表現ではなく大衆的に分かりやすい表現をする方が良いのでしょうが、通俗的すぎるのもどうかな...。

 キャニオンの担当プロデューサーは、「ひとりぼっちのサーカス」の後、大輪から坪野隆に変わっているね。大輪の揺さぶり路線ではファン層が定着しないぞ、とナベプロ側が感じたからではないかな...


 坪野隆のやり方は、大輪のような独特の構想を立てるやり方ではなく、自分のフィーリング任せという言い方がふさわしいかと思う。

 舞台の上の虚構の世界という「くるみ割り人形」を演出した大輪なら、「女のカン」という妙に肉感をもった通俗的な言葉を、採用することはないでしょう。生身の女の感情がまとわりついているかな、と。


 まあ、それはパスするとしても、まだ20歳前のひとみちゃんの歌には似つかわしくない、と思うな。

 渡辺晋はアイドルタレントには「純潔」イメージを絶対に崩さないよう命令したそうです。天知真理、キャンディーズetc...。

 しかし歌手石川ひとみの歌は、デビューからそのようなイメージを持ち得ない歌詞があてがわれた、というのが、ファンとしてはいまいち不満を感じるだろう。


 正直いって、こういう曲は後でいい、と。もう少し大人になってからでいいじゃないか、と思うよね。

 そういうのは演歌の世界で、じっくり聴かせてくれる人がいくらでもいます。
 もう少し大人になってから歌ったのであれば、良い曲なのに、と思う。


 ひとみちゃんの声は張りがあるので、
 「嘘は罪じゃない!」
 と叫ばれると、後ろめたいことをやったことのある男としては「まあまあ、落ち着いて」とか思わず口走ってしまいそうです。


 でも、この「せっぱ詰まった感じ」がイイという人もいるんだね。
 大人の歌といっても、年代で言えば20代半ばから30歳代かな。男女がまみゆることに真剣に向かい合える、あるいは大切な意味を感じられる年代、と言って良いでしょう。

 それ以上の大人になると、もうそういうのはもう勘弁してほしいな、と。そういう消耗戦を何度か通過してしまうと、神経がささくれ立って鈍くなり、「人生の無駄使い...」という感覚を覚えてくるのでね。


 音楽はいろいろな状況で聴かれますので、たとえば車に乗ってドライブしている時とか、家で横になって静かに聞いている時とか、あるいは精神状態の違いによっても、受け止め方は違うし。

olive01.jpg この時のフリがマイクの前で「お縄頂戴」のポーズをとりますが、私的には、ちょっとストレートすぎるんじゃないかい、と。

 それならいっそ、
「誰かに盗られるくらいなら、あなたを殺して いいですか?」(『天城越え』)
...と石川さゆりに、サラリと恐ろしく言われた方がイイかな。

 しかし、この『オリーブの栞』が良い、好きだというファンも多い。

 私は、『くるみ割り人形』の石川ひとみ派なので、『オリーブの栞』のような男女の愛憎みたいな濃いテイストの歌はあまり好まないのだけれど、ね。

 そういうことに消耗し尽くして、君子危うきに近寄らずになってしまっているからでしょう。


 この詞で三浦さんが表現したいのは、

 「一人の(自立した)女として、私があなたに惚れたので、あなたが他に女をつくっても、それはそれでとやかく言わない。嘘を言ってごまかしても、あなたが悪いと責めたりしないわ。
 愛したことを後悔するはずもない。愁嘆場にはしないで、明日、私一人、どこかに消えるわ」

 という自立した女の「潔い別れ方」なのでしょう。三浦徳子的フェミニズムだな、と思う。


 全体的にはベタつき感がなくてりりしい女のイメージがあって、悪くないのです。

 唯一、「女のカン」という女性性イメージが、曲全体のイメージを浸食して、19歳のひとみちゃんには似つかわしくないかな、ということです。


 一般的には歌詞の意味までは深く考えないのが普通かもしれませんが、ディープなファンとしては、聴いた瞬間にイヤな感じを覚えてしまいます。歌詞と現代詩を決定的に分かつものが、この一語にあるのだけれど、そういう意識を持っていない人には、何の問題も感じない、かもしれない。


 まあ、そういうことで、調べてみますと、この『オリーブの栞』のキャッチコピーは「美しく、セクシャルになったね。ひとみ」...というのだとか。

 要するに、ダイエットに成功して水着姿を見せても恥ずかしくないようになりました、ということなのでしょう。


 しかし、セクシャルになったといって、評判が結構良かった『ハート通信』や『ミスファイン』を卒業して、まみれた歌に本格的に取り組むということなのだろうか?

 どうも、デビュー曲の取り違えが、ずっと後を引いているような気がします。それに、20歳になるのだから、大人の女の歌と単純には行かないはずだけれど。

 貧すれば鈍する、とか言いますが、売れない焦りで次々と手を変え品を変えることが、自分たちの首を絞めているのではないかという気もするなァ。


 わたしは、まみれた歌が嫌いというわけではありません。
 アイドルひとみちゃんでなければ、濃いやつも好きなのだ。

 北原ミレイだっていい。石川セリの『八月の濡れた砂』でも好きです。

 同じポニーキャニオンから、前年にリリースされている山崎ハコの『地獄「心だけ愛して」』なんて、素晴らしいと思っています。

  (心だけ愛して)2、あなたにそれが できますか?
   心だけ愛して 心だけ、あーあ、あなたが欲しい
  (心だけ愛して)2、 あたしもうできない 
  堕ちてゆく、どこまで
  堕ちてゆく、あーあ、堕ちてゆく

 「地獄に墜ちても、私はあなたが欲しい。愛欲の世界にどこまでも堕ちていく」

 こんな強烈な歌、今のひとみさんでも似合わない。当然だよね。


 ひとみちゃんには山崎ハコの、このような感性はなかったし。ハコはこれを作詞作曲しているわけで、2歳年上という以上に、精神的年齢差を感じる。言葉に対する感受性もまた、違っているのだけどね。

 石川ひとみは両親に愛情いっぱいに育てられた女の子らしい天真爛漫さ、自分の気持ちを素直に出す若々しい自信のようなものもあって、大人の歌を歌うには人生経験が足りないでしょう。


 ですから、『くるみ割り人形』、『ハート通信』、『ミスファイン』の系統を好む多数派ひとみファンは、この曲(レコード)は二の足を踏むはずです。オリコン圏外で、売り上げも公表されていないようですね。


 曲が決して悪いわけでもないし、石川ひとみの歌が悪いわけでもない。しかし、こうも次々と前のものをぶち壊しにしてしまうスクラップ&ビルドを繰り返しては、ファンがついて行けないということだね。

 比喩的に言うなら、「二兎を追う者は一兎をも得ず」ということになってしまうのだろう。

 プロダクションのイメージ戦略が全くなっていないのではないかといわざるを得ない。

 スプリット・テスト・マーケテイング・リサーチという戦略であれば、いいのですが、それでも最初の2曲で結果が出ているわけです。大人の女系の歌では反応が小さく、アイドル系でよく売れた。

 ファンは『くるみ割り人形』を支持したのですから。


 ツッパリキャラの三原順子やプレイバックパート2の山口百恵の路線をやるのは早すぎる、ノダ。 

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