石川ひとみ「雨に誘われて」 再録

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 旧記事から抜け落ちたものを、こちらに移植しておきます。
 LP「くるみ割り人形」収録の「雨に誘われて」
 壁の花に沈む「くるみ割り人形」の世界とは正反対の、男に挑む女性の歌です。
 「雨に誘われて」というメタファーですが、一歩踏み出すという感覚でしょうか。
 清水の舞台から飛び降りるというほどのことではなく、一歩踏み出して、雨に打たれる。

 雨とは、文字通り「濡れ場」の意象を持ち、穢れるというほどのことはなくただ濡れるだけ。
 この言葉で、少女セシルが少女ではなく大人の女に変わるシーン的な切り替えを表象しています。

【雨に誘われて】 (1978.12.21)LP「くるみ割り人形」
歌:石川ひとみ/作詞:三浦徳子/作曲・編曲:大村雅朗

 この曲の出だし部ですが、言葉ではなくて、現実に「あなたの手を差し伸べて欲しい」ということが述べられています。
 
 このフレーズには(抱きしめて)という言葉が省略法として暗示されています。抱きしめて欲しいと。

 「肉体に刻印せざる初恋と別離とがあろうか」と、詩人の藤井貞和が、詩論集のなかで書いていますけど、この歌は三浦徳子さんが一番本領を発揮する大人の女の世界だなと思います。

 これに対して、くるみわりの方は、あえて差別化することを意識していますので、幼すぎる世界になってしまったようですけど、石川ひとみさんのイメージの範囲内でしょうね。

 
 これに続く三行は、現実感の希薄な表現ですね。
 
 テレビや映画でしか見られないような、演出だといってよい。
 私の印象では、シャワーを浴びて、腰に巻いたバスタオルの端で髪を拭いている、というイメージを懐きます。しかし「シャワーに誘われて」では劇的ではなく、色年増ふうになってしまいますから。

 
 そして、この歌詞のメイン部分が何度か、形を変えて出てきます。
 今ならばキスしてもいい、けど、照れたりためらったりしてはだめ。それは、明日にして......
 
 りりしい女に、あなたは挑まれているのだ。
 曲作りや歌い方で、相当にニュアンスが違ってくるでしょう。
 三浦徳子さんの絶品セリフ、最高傑作のひとつだなと思う。

 それで、あなたは優しすぎる人だけれど、そういう配慮は今だけ忘れて欲しい、と。

 ...しかし、ここまで挑まれてしまうと、恋愛的狂気をおびてきますので、私のように気が弱い男は「い、いいえ、また今度 お願いします」とか、実にさえない言葉しか言えず、「つまらない男ね!」とか、罵倒されてしまうのかもしれないな。

 好きだれども、まだ少女だと思っていた彼女が、もう子供じゃないのよ!

 ...と、挑んできたら、どうする? どうする?

 その変身の理由として、雨に降られたことを挙げているけれど、
 ...太陽がギラギラ照りつけていた...(から、殺した)という、カミユ的不条理感も見えているね。

 栃木弁ですと、こういうとき「勝負すっぺ!」という、便利な勝負セリフがあるのですけど、田舎者的な野生を持っていないと、討ち死にしてしまうかもしれない。

 最近、アラサー後半くらいの女性画家と知り合ったのですけれど、なぜか妙に三浦さんはこんな感じの人かな、という気がしましたね。G.バタイユの本を携えていましたので、オッと思いました。

 酔った先輩画家が、いきなり彼女の胸に手を当てて、世迷い言を言ってましたけど、平然としていて、りりしく、大変魅力的な方でした。

 ですから、この歌はとても、石川ひとみさんのデビューアルバムに収まるような女性像とはいえないかとおもいますが、プロデューサーの対角線投法戦術だそうなので、目をつむるしかない。

 しかし、大人の女の歌詞としては、小気味よく、ちょっと危かしくもあり、ハイセンスで、大人の男なら魅惑されるものを感じるでしょう。

 残念なのは、曲の方がちょっと派手すぎて、合っていない感じがすることかな。
 キーが高いので、もう少し抑えて、シックに歌える曲作りにした方がこのすばらしい歌詞が生きた名曲になる可能性もあります。
 でも、そうなるといかにも石川ひとみらしくなる、ということです。大輪のプロデュース戦術に問題があるね。外れすぎている。25歳過ぎに提供されたなら、曲作りも変わり、名曲になったかもしれないのに...

 

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2010年7月28日 10:03ブログ記事一覧です。

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