麻生よう子 『逃避行』 『午前零時の鐘』

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 石川ひとみの記事で麻生よう子が出てきたとたん、いきなり学生時代の気分に戻ったような気になりました。
 音域が広く、低音に深みを感じる憂い声、歌が大変うまい歌手でした。
 私の仲間にフリージャズをやっている連中がいて、歌謡曲は冷やかしの対象にしかならないのですが、麻生よう子だけは特別扱いで、「よう子」という名前を聞くと耳がピッとなるくらい入れ込んでいました。

 若いけれども、大人の歌が似合う声質でしたが、私は「憂い声の底なし沼」にずぶずぶ引き込まれそうな、しっとり感を少なからず敬遠していたかと思います。
 彼女の歌は、ずぶずぶ行きそうでいかない境界を綱渡りするような、演歌の世界にワープしそうな、危うい感じの憂い声で低音を歌う...そういう印象をもっていました。

 この声の系統に黛ジュンがいますが、彼女の方はどっぷりの憂い声であることは『夕月』でご紹介しています。

 麻生よう子も黛ジュンも、そして畑中葉子も同じ声の系統で、私が好きな声質ですからシングルレコードを買って聴いていましたが、表向きは岩崎宏美ファンを標榜していましたね。

 麻生よう子と黛ジュンはキャラがかぶるところがあり、ウブできまじめなよう子は、米軍キャンプで歌っていた黛ジュンの濃いキャラクターにはかなわないところがありました。

 でも、レコ大新人賞を取った実力者のよう子、スローなバラード風の歌を雰囲気よく歌っていて、玄人好みという感じがします。

 『逃避行』 (1974.02.21) 作詞:千家和也/作曲:倉俊一/編曲:馬飼野俊一



     昨日の酒に 酔いつぶれているのだわ おそらくあの人のことよ
     それがなきゃ いい人なのに あきらめたわ わたし
 ひとり
     切符買うーうーうー...

     女のひとに 引き止められてるのだわ
 おそらくあの人のことよ
     それがなきゃ いい人なのに あきらめたわ わたし
 ひとり
     汽車に乗るうーうーうー...

 音程を落としていくエンディング、にくい演出ですね。
 期待が失望に変わり、諦めとなっていく、その気持ちの変化をうまく表しています。
 演歌であれば、思い入れたっぷりのビブラートになるはずのところですが、それを意識して避けているようです。

 改めて聴いてみると、石川ひとみよりも、岩崎宏美よりも、いい声しているところがあるなという感じがしちゃうね。
 おそらくあの人のことよこの辺の歌声が麻生よう子らしさが出ていて、よう子ファンにはグッとくる声です。
 それが濃すぎると思う方は「(午前五時に)駅で待てと」、「(裏切ったら)お別れだと」というあたりの「よう子ボイス」がチラ見えする境界線あたりの歌唱が、他のアイドルたちにはないこの人の魅力だと言って良い。

 太くて濃い音質、たとえればチェロのような大きな共鳴胴を朗々と響かせるポテンシャルを持っていて、それをグッと絞り込んで歌い出しのような細く柔らかい声を出そうとするとかすれ声になる。
 チェロでバイオリンのような音を出す時、と言い換えてもよいかもしれない。

 そのとき微妙な柔らかいかすれ声になるのだけれども、本来の声が時々顔をのぞかせる...この感じがいい、ノダ。
 発声に、余力が十分にあるなと感じさせるある種の安心感とか、すごみとか、感じるはずです。

 この特質は、たとえば松田聖子がいくらがんばっても、トレーニングしてもとうてい及ぶものではない、というものを持っています。

 これが、よう子のデビュー曲ですから、ものすごいポテンシャルをもった女の子だなという印象を受けました。
 この声と歌のうまさですから、お顔がもう少し...桜田淳子クラスだったら、アイドルとして売れたはず。
 (許せジャズメン、30年前に言えなかったことを、言ってしまったぜ)

 きまじめで、石川ひとみと同じようにきっちりと正統派の歌い方に性格が表れています。
 五味康祐に「芸能人には向いていない」と言われて、ジャズメンたち腹を立てていました。

 友人にアル中の無頼派の男がいて、
私の好きだった女の子を泣かせたのですが、その男と一緒に歩いているときに「それがなきゃ いい人なのにィー」とこの曲を口ずさんだのが、印象に残っています。
 「いままでずっと 泣かされたけど...」という女の子が言いたいセリフなのに、こいつ悪ぶってるヤローだ、と思いました。

 その話をジャズメンに聞かせたら、「あいつ...、麻生よう子の歌を勝手に歌うな!」と気色ばみました。
 そんな思い出がある歌です。

 『午前零時の鐘 (1974.08/21) 作詞:千家和也/作曲:都倉俊一/編曲:田辺信一

 


      私も女です きっぱりあきらめる
      ...
      計算通りには 愛はいかないわ...

 この歌を聴いているときに、ジャズメンのリーダーでドラムをやっている同級生が人差し指を顔の前で前後に振って、「ヘッヘッヘ!」と、ニヤリと笑ったのを想い出しました。

 メンバーの一人が、付き合っていた高橋真梨子似の彼女から、けじめをつけられてしまった騒動があった後でしたので、それを意味していたのでしょう。

 千家和也の歌詞はごく自然に自立した女のりりしさを詠っていて、小娘の年齢の麻生よう子がごく自然に歌って、よく合っています。三浦徳子の歌詞と石川ひとみのミスマッチ感のようなものがなく、大阪女の根性娘よう子の代表作となっています。

 どちらも、都倉俊一テイストで、都会的な小洒落た雰囲気が大人を感じさせる、いい曲ですね。

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