佐良直美 『いいじゃないの幸せならば』

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 いいじゃないの幸せならば。
 この歌は、いろいろな意味で微妙なところのある歌だなと思います。

 1969年(昭和44)のレコード大賞曲、作詞: 岩谷時子/作曲: いずみたく
 40年前の曲ですから、現在の感覚とは少し違うところがあるかもしれません。
 岩谷時子/いずみたく、というヒット曲メーカーの息があっていて、佐良直美の歌い方がマッチして、雰囲気のある大人の歌になっていますね。

 あまりにもはまりすぎ、という感じがするほどで、他の歌手にはこの直美フィーリングが出ないような気がします。森昌子もボサノバのアレンジで歌っていて良い感じですけれど、ちょっと違うなという感じを私は持っています。

 例によって、あくまでも個人的な印象になってしまうのですけれど、ひとことで言えば「大人になるなならないかの、境目の感情」が、この歌における佐良直美的フィーリングかな。

 岩谷時子は大正生まれの当時53歳、熟年に入りかけた年齢ですので、酸いも甘いも分かっているかたですから、大人の歌であることは間違いない。
 けれども、佐良直美は当時24歳...自分を殺し相手を殺すというシーソー心理の年齢ですね。

 彼女はレズでしたので、そういう内的なものも微妙な感情を帯びさせているのかもしれません。



  この曲はギターの弾き語りに手頃ですので、私も学生下宿の部屋で、ぼそぼそと小さな声で時々歌ってみたりしました。

 ある夏の日、つきあい始めた彼女が部屋にいて、私はギターを手にして、カルメンマキの「時には母のない子のように」(1969)とか弾き語りをしていて、何気なさそうにこの「いいじゃないの幸せならば」を付け加えました。

 彼女はそれまで、同じ露文の別な同級生と付き合っていたのですが、ちょっと「エデンの園」みたいな経緯があって、私の元に走った女の子です。

 彼のことは小林秀雄と中原中也みたいな関係だなと思っていましたけれど、彼は悔しい思いを噛みしめていたのでしょう。「(彼女との関係は)終わったからといって、(自分たちの)恋を否定したくはない!」私の前で、彼は別な同級生の女の子に力説していました。

 そして彼は「エデンの園」のアレンのように志願して機動隊に突っ込み、逮捕投獄されてしまいます。後に出所して、キャンパスで彼と会ったとき、チラッと目を合わせたきり黙っていましたね。

 ですから、私にも彼女にもわだかまりがあったのですが、口には出したりしないでいた...
 それで、この歌を歌った時に、「いいじゃないの幸せならば」の歌詞部分だけ、声を合わせて歌ったのです。

 私の言いたいことは彼女にも通じたのでしょうが、彼女はその後、
 「ほんとに、そうなのよね」と、言って、ギターのフレットを押さえている私の指を握りました。

 それを聞いて、私はある種の苛立ちというか怒りというか不快感というか、ちょっと気分を害しました。
 言ってみれば、生暖かく柔らかでけじめのない受容性というか、その女性感覚が気に入らなかった。

 黙って窓の外でも眺めていてくれたらいいのにな...と。
 口に出して言ってしまえば、ちょっとえげつなくなる。おばさんのセリフとなってしまい、18の女の子としてはちょっとちょっとだね。

 中也ふうに言えば「汚れちまった悲しみ」になってしまうでしょう。

 「あなたはダイコンのようだ...
  傷つきやすいけど、
  鈍い!」

 キッパリと切り捨ててしまいました。それが私の流儀、というか、そういうことでしょう。

 このことがあって、私は中也君(彼氏)に感情的な借りを全部返してしまいたくなったのだった。
 (ということで、前の松尾和子の記事につながるわけです)

 佐良直美の人となりが、この歌のムードを男女関係における女性的な居直り感を払拭して、中性的女性感を帯びて歌っている、という感じがするのね。それが、直美フィーリングなんだと。
 もともと佐良直美はお嬢様育ちで、品がいいのですけれど、それだけで済まされない微妙で繊細な感受性の歌手ですね。

 森昌子の場合は、ずっと大人になってからの歌ですから、岩谷時子の歌詞により近似的になってきますけれど、やはり意識して年増女のえげつない雰囲気だけは避けていますね。
 「イイじゃないのォー」とかいうおばさんの雰囲気が感じられたら、ぶっ壊しになるからねェ。

 岡田冨美子作詞『タイトロープ』の「いいじゃな、いいじゃない ふられごっこー」という歌詞はメロディーと相まって、そこを外しておばさん的だなと私は感じるのですけれど。

 森昌子カバーバージョン『いいじゃないの幸せならば』

 ボサノバアレンジが軽さを演出しているようですね。これを聞くと、丸山圭子で聞いてみたくなるなァ。彼女の透明感というか浮遊感のようなものは、ある意味でこの歌に合うと思う。

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